多角化戦略とは?メリット・デメリットと成功企業の実例も紹介

中小企業診断士と新規プロジェクト

「選択と集中」がよい戦略として謳われていました。しかし、コロナの影響で旅行業界や飲食業界を中心に、集中戦略をとっていた企業が厳しい状況に追い込まれ、多角化の重要性が明確になっています。実際に、経済産業省の中小企業庁でも、多角化戦略の重要性を中小企業向けの支援サイトで紹介しています。

多角化は成功すればメリットが大きい戦略ですが、うまくいかないと足を引っ張る負債事業を抱えることになってしまいます。そこでこの記事では、多角化戦略のメリット、デメリットや多角化を進める際のポイント、実際に多角化経営を成功させている企業について解説します。

多角化戦略に興味があり、どのように進めればいいか検討を進めている経営層の方や新規事業の構築を任されている担当者の方は、参考にしていただければ幸いです。それでは、確認していきましょう。

多角化戦略とは

多角化戦略としては、戦略的経営の父とよばれるイゴール・アンゾフが提唱した「アンゾフの成長マトリクス」の中の一つで、新規製品×新規市場に自社の経営資源を投入していく戦略が有名です。

これ以外にも、企業がさまざまな事業を多角的に行う戦略を指します。ここで、アンゾフの多角化戦略と多角化戦略の分類について紹介します。

アンゾフの多角化戦略

  既存製品 新規製品
既存市場 市場浸透戦略 新製品開発戦略
新規市場 新市場開拓戦略 多角化戦略
アンゾフの成長マトリクス

アンゾフは、成長戦略を「成長」と「市場」の2軸におき、それぞれに対して「既存」と「新規」に分けたアンゾフの成長マトリクスを提唱しました。

  • 既存市場×既存製品:市場浸透戦略
  • 既存市場×新規製品:新製品開発戦略
  • 新規市場×既存製品:新市場開拓戦略
  • 新規市場×新規製品:多角化戦略

多角化戦略は上記のように、新規市場に新製品を投入することを目指す選択です。自社の経験のない領域に新製品を投入していくため、ハイリスク・ハイリターンの戦略として知られています。

企業が成長していくうえで、いきなりアンゾフの多角化戦略を選択するのはリスクが大きいため、新製品開拓戦略や新市場開拓戦略を挟んでから取り組む企業が多くなっています。

一方で、やむを得ず多角化戦略を取らざるを得ない場合があります。できる限りリスクを下げるために、入念なリサーチを行い、自社の経営資源を可能な限り活かしていくことが重要です。

多角化戦略の分類

多角化戦略は、以下の4つの戦略に分類できます。

  • 水平型多角化:既存技術と関連性の高い新製品を既存と類似した市場に投入
  • 垂直型多角化:既存技術を関連性の低い製品を、既存と類似した市場(川上・川下)に投入
  • 集中型多角化:既存技術と関連性の高い新製品を、既存と異なる市場に投入
  • 集成型多角化:既存の技術や市場とは、全く異なった事業に進出

実際に多角化戦略に取り組む際には、自社の技術や設備、ノウハウを活かせる水平型多角化や集中型多角化に取り組むのが現実的です。これらの戦略を取ることで、自社の経営資源を活かし、シナジー効果や相乗効果も期待できます。

多角化戦略のメリット

多角化戦略には、大きなメリットがあります。それぞれの項目について解説します。

  1. 収益の増加・安定化
  2. 経営リスクの低減
  3. 事業間のシナジー効果
  4. 範囲の経済性
  5. 経営資源の有効活用
  6. 社員の能力向上

収益の増加・安定化

ある程度成熟した産業の場合には、すでにシェアの奪い合いとなっており、収益を大きく増加させるのは難しい状況です。多角化戦略により他の市場へ出て収益を上げることができれば、その分はそのまま収益の増加に繋がります。

また、既存事業に対して厳しい環境に追い込まれたとしても、他の事業を作っておくことで減少した収益をカバーできる可能性があります。リスクを分散しながら収益を得られる上、シナジー効果の発揮やポジションを経験できる社員の成長により、長期的な収益安定化が期待できます。

企業を大きく育て、収益を安定化させるためには多角化戦略は効果的であることがわかります。

経営リスクの低減

事業を多角化しておくことで、経営上のさまざまなリスクの影響を低減できます。特に顕著なのが2020年以降でさまざまな産業に大きな影響を与え続けているコロナ禍のような状況です。他にも、市場のニーズが多様化することによる趣味嗜好の急速な移り変わりなど、変化は激しくなっています。

単一の事業しか行っておらず、急激な環境変化が直撃してしまった場合、最悪の場合には経営が立ち行かなくなってしまい、倒産してしまう可能性があります。そのような状況では、多角化戦略を取って複数の事業を持っておくことが、経営リスクの低減につながります。

これからは、少しずつでも多角化戦略を取っていくこと企業が増えていくでしょう。

事業間のシナジー効果

複数の事業を保有していることで、事業間のシナジー効果が期待できます。シナジー効果とは、事業同士が互いに良い影響をもたらし合うことで、単体で行っている場合よりも大きな結果を生み出す効果を指します。

多角化戦略によって期待できるシナジー効果としては、ノウハウの共有化や材料・設備などの共有化、物流網の最適化によるコスト削減などのシナジー効果が想定できます。

範囲の経済性

多角化戦略を取ることで、範囲の経済性を得られる可能性があります。範囲の経済性とは、複数の事業を行う場合、それぞれ別の会社が行うよりも、一つの会社が行うことで、低コストで事業を運営できる効果です。

具体的には、異なる事業部でもブランド名を共通化することでブランドの確立までの期間を短縮でき、本来広告などにかける必要があった費用を他に回すことが可能です。

多角化する際に選択する事業をうまく選定することで、シナジー効果や範囲の経済性を得られるため、どのような事業を選定するかは慎重に選ぶ必要があります。

経営資源の有効活用

現在の事業で自社の持つ経営資源を有効活用できていない場合、事業を多角化することで有効活用できる場合があります。例えば、事業の撤退などで空いた土地を活用できる駐車場事業などを選択すれば、無駄な経営資源から利益を生み出せる可能性があります。

社員の能力向上

新しい事業に取り組むことで、新しい能力や知識を持った人材や新しいポジションが必要になります。既存事業に取り組んでいるだけでは得られなかった社員の成長に繋げることができます。

その企業に所属する社員の能力が高ければ、厳しい状況が発生したとしても柔軟に対応でき、強い組織を構築できます。

多角化戦略のデメリット

一方で、多角化戦略に取り組むにはデメリットもあります。

  1. 経営資源の分散により経営効率が悪化する
  2. 多角化の失敗で大きな損失に繋がる
  3. 新規事業を軌道に乗せるためにコストがかかる

1.経営効率の悪化

企業は限られた経営資源を各事業に分配し、成長を目指していきますが、事業を多角化することで一つの投入できる資源が限られてしまいます。例えば規模の拡大によるコスト削減などをしにくくなるため、経営効率の悪化につながる可能性があります。

多角化を検討する際には、十分な経営資源があるかどうか、無駄資源をうまく活用できるかどうかなど、経営効率の悪化につながりにくい方法を検討するといいでしょう。

2.多角化の失敗による大きな損失

多角化は基本的には、従来自社が取り組んでこなかった製品や市場に挑戦する戦略です。経営資源をうまく活用したとしても、そう簡単にうまくいくものではないため、失敗してしまうと投入した経営資源を失ってしまう可能性があります。

また、自社で一から新しい事業を立ち上げるのではなく、他の企業を買収するM&Aによって多角化を行うという選択肢もあります。これも同様に多額の資金をかけて買収した事業がうまくいかないと、大きな損失に繋がります。

多角化戦略は、立ち上げた事業が失敗する可能性があり、その結果大きな損失に繋がってしまうということを、十分理解することが重要です。そのうえで、失敗する確率を下げ、失敗した際の損失を抑えるための検討を十分に行う必要があります。

3.軌道にのせるまでのコスト

自社で立ち上げる新事業を軌道に乗せるために、広告によるブランド認知に加え、研究開発費や事業内容によっては生産設備、拠点の確保など利益を生み出すまでは大きなコストが負担になります。

自社の経営資源をうまく活かことやそもそもコストがかからない事業を選択することで、コスト増を避けられます。しかし、立ち上げる事業の幅を狭めてしまうことに繋がるため、注意が必要です。

多角化戦略の実現方法

多角化戦略を実現するためには、大きく分けて3つの選択肢があります。

  1. 社内ベンチャー・新規事業
  2. アライアンス
  3. M&A

1.社内ベンチャー・新規事業

自社単独で始められるのが、社内ベンチャー・新規事業です。既存の事業とのシナジーが見込みやすい「水平型多角化」となる事業を選択するのがおすすめです。事業設計の自由度は高いですが、アライアンスやM&Aと比較して時間がかかるというデメリットがあります。

他社が進出していないような競争が激しくない市場を開拓するためには有効な選択肢です。一方で、すでに成熟している市場に対しては認知度向上や市場シェア獲得に時間がかかるため、得策ではありません。費用対効果を考えても進出するメリットはないでしょう。

2.アライアンス

アライアンスとは、外部の企業と資本提携、業務提携、資本業務提携などを行うことです。外部の経営資源を活用できるため、うまくシナジーが得られるような自社の進出していない領域に進出する垂直型多角化や集中型多角化が向いています。

提携先の技術やノウハウを活用できるため、自社単独の場合よりも商品やサービスの開発を短時間で実行できます。しかし、当事者間の調整を行う必要があり、事業を設計する自由度が低下するデメリットがあります。

アライアンスを解消された場合には、事業継続に支障が出る可能性があるため、そのような状況を想定し対策を講じておくことが重要です。

3.M&A

アライアンスを含まないM&Aは、外部の企業や事業を買収することで、自社の持つ既存じぎょいうとの関連性に関わらず多角化を行うことが可能です。

アライアンスに比べて当事者間の調整がしやすくなり、経営資源をうまく活用できます。一方で、M&Aを行う際には買収資金が必要となるため、その判断を誤るとそれが大きな足かせとなり、経営状態を悪化させてしまうリスクがあります。

多角化戦略で成功している企業の実例

よく知られている大企業の中には、多角化戦略に取り組んでいる企業は多くあります。代表例として、ソニーやオリックス、ヤマハ、セブンイレブンなどが挙げられます。また、カメラ用フィルムメーカーから、自社の技術を活かして化粧品事業などを立ち上げた富士フィルムが有名です。

ただし、これらの企業は多くの企業にとって参考にするのが難しく、どうすればいいかイメージしにくいでしょう。そこで、北海道の札幌を拠点とするヤマチユナイテッドの事例を紹介します。

ヤマチユナイテッドの多角化戦略

ヤマチユナイテッドは、北海道の札幌市を拠点とした企業です。住宅産業を中心に、50以上の事業を展開する企業グループで、「THE 100VISION」を掲げ、さらなる事業の多角化を推進しています。

1998年に発生した北海道拓殖銀行が経営破綻した後の金融不況で、住宅事業が不況に陥り、社員をリストラせざるを得なかった経験から、リスクを分散できる事業の多角化に本格的に取り組んでいます。

事業としては、ある程度うまくいっているコア事業と親和性のある事業を優先的に取り組んでいます。例えば、住宅事業であればそこで使われるインテリア事業などです。新事業立ち上げのリスクを分散しながら、シナジー効果も得られるため、失敗しにくい取り組みです。

新しい事業一つだけでは大きな収益の増加には繋がらないかもしれませんが、同様の比較的小さな事業を多数生み出すことで、任せられる人材の育成やリスクの分散を実現しています。

このように、多角化戦略におけるデメリット、リスク要因をできるだけ排除していくことで、安定感を増しながら会社として成長し、規模を大きくしていくことが可能です。

多角化戦略を成功させるポイント

多角化戦略を成功させるためのポイントには、さまざまなものがあります。特に重要だと考えられるものを紹介します。

  1. 新規事業の立ち上げは簡単ではない
  2. リスクをできるだけ下げる
  3. 人材育成を並行して行う

新規事業の立ち上げは簡単ではない

新規事業の立ち上げは簡単ではありません。十分理解していると思われるかもしれませんが、経営幹部や従業員を含めて、改めて失敗することも多いことを認識するべきです。

簡単ではないことを再度認識することで、新規事業の立ち上げをする際の準備をしっかりと行うことができます。見込みが甘く準備不足であれば、チャンスを逃してしまいかねません。

また、簡単なものではないことが認識できていれば、何度か新規事業の立ち上げに失敗したとしても、チャレンジをやめてしまう雰囲気にはなりにくいでしょう。一度や二度の失敗でやめてしまっては、その先にある成功をつかみ取れないかもしれません。

リスクをできるだけ下げる

多角化戦略に必要な新規事業の立ち上げは簡単ではありません。そこで、失敗をするリスク、失敗した際のリスクをできるだけ下げておく必要があります。

例えば、最初から大規模に経営資源を投じるのではなく、最初は少ない人員、予算で取り組んでみることが重要です。また、進出先の選定も初期費用を抑え、自社の成功している事業と親和性が高いものがいいでしょう。

このように、失敗するリスクを下げ、失敗した際のリスクも下げておくことで、チャレンジを継続し、結果的に成功を掴みやすくなります。

人材育成を並行して行う

新規事業の立ち上げや事業の多角化を進めていくと、そのすべての経営者自身や限られた幹部が関わっていくのは困難です。せっかくうまくいっている事業も、社内の人材が不足することで失敗に繋がってしまう可能性があります。

そこで、事業を立ち上げる際には必ず人材育成もセットで行い、ある程度の段階で経営層が手離れをして任せられるようにする必要があります。社内で人材確保が難しい場合には、採用や外部とのアライアンスという手段も選択肢の一つとなるでしょう。

仮に事業がうまくいかなかったとしても、裁量を持って大きな仕事を任せてもらった人材は、同じような業務に取り組んでいる人材よりも早く、たくましく成長するため、今後の活躍も期待できます。

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まとめ

この記事では、企業の多角化戦略のメリットとデメリット、成功している企業の例や成功するためのポイントについて解説しました。

すでに厳しい状況になってしまっている場合だけでなく、少し余裕がある段階で新規事業の立ち上げや多角化を行っておくことで、さまざまな経営リスクに耐えられるようになります。まずは、事業の立ち上げと多角化を検討してみてはいかがでしょうか。

今後、併サイトでは活用して頂ける資料の準備やサービスの提供を進めていく予定です。ぜひ一度お声かけ頂けますと幸いです。

 

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