リーンキャンバスとは|事例でわかる新規事業で必要なフレームワーク

中小企業診断士と新規プロジェクト

新規事業を立上げる際、必須とされる「事業計画書」。

しかし事業計画書の作成には、膨大な時間と手間がかかりますし、一度作成した事業計画書は分厚くなりがちで、読むのも一苦労です。

上司や同僚から指摘をもらった際の修正や改定作業に、心が折れる方も多いのではないでしょうか。

せっかく優れたアイディアや技術があっても、事業計画書作成が壁となり事業化が遅れてしまうことは、スタートアップ企業にとってとても重いコストとなります。

そんなスタートアップの味方。時間とコストをかけない、スタートアップの事業計画に最適なフレームワークが「リーンキャンバス」です。

この記事では、そんな「リーンキャンバス」の作り方を、先行企業の事例を用いて紹介します。

スタートアップの事業計画に最適な「リーンキャンバス」

リーンキャンバスとは、「Running Lean」の著者で、USERcycleの創業者であるアッシュ・マウリャ氏が提唱したフレームワークです。

特にスピードが必要とされる事業スタートアップの段階や、IT関連の企画において強い効果を発揮します。

リーンキャンバスとよく似たフレームワークに「ビジネスモデルキャンバス」がありますが、ビジネスモデルキャンバスは、既存事業の拡大に力を発揮します。

リーンキャンバスは、ビジネスモデルを9つの要素に分けて、A4用紙1枚サイズに整理することができるので、次の3つのメリットがあります。

短時間で作成することができる

A4用紙1枚のフレームワークのため、作成自体は30分程度で作成することができます。また、もしフレームワークの必要事項がスムーズに埋められない場合には、検討が不十分な要素があると判断することが可能です。

簡潔でわかりやすく、関係者に説明しやすい

短い言語でフレームワークが構成されるため、社内関係者やアンケート調査を行うユーザーにも理解してもらいやすいメリットがあります。

写真やPDFなどでも共有しやすい

A4用紙1枚分のため、紙で持つ場合も分厚い計画書を運搬する必要がなくなります。写真やPDFスキャンなどのスマートフォン機能でも共有しやすいため、迅速かつ気軽に関係者へ共有しやすくなります。

リーンキャンバスを構成する9つの要素

リーンキャンバスは、事業計画に必要な9つの要素を1枚のキャンバスに落とし込むフレームワークです。

①     顧客セグメント

まずはサービスを必要とする顧客セグメントから決めていきます。

「どのような顧客がサービスを必要としているのか」、「特定の課題を持っている顧客層はどこに属するか」から決めることで、顧客の課題が明確に浮かんできます。

顧客セグメントを決める際には、イノベータ理論におけるアーリーアダプターから想像すると、より課題が明確になります。

アーリーアダプターとは、リリース後の比較的早い段階でサービスを利用し、周囲に影響を与える顧客を指します。

可能な限り顔の浮かぶ顧客(ペルソナ)を思い浮かべるようにしましょう。

ペルソナを広く捉えすぎてしまうと、次に考える「課題」がぼやけてしまう可能性があるので注意が必要です。

②     顧客の課題

次に、想定した顧客セグメントの抱える課題の上位3つを書き出します。

また、想定顧客がその課題に対して、現在どのような対処をしているか(競合、代替手段など)を書き出すと、次に考える「独自の価値提案」が浮かびあがってきます。

競合や代替手段が浮かばない場合は、企画中のサービスがそもそも必要とされていないか、想定している顧客セグメントがまだ抽象的な可能性があります。

③     独自の価値提案

顧客の課題で想定した競合や代替手段に対し、差別化できる固有の価値を記載します。

この項目はすぐに明確なものを考えるのが難しいため、初めのうちは大まかなイメージで書いても問題ありません。

価値を抽出する際に機能に重点を置いてしまうことがよくありますが、機能よりも顧客目線での利点(ベネフィット)を意識するできでしょう。

ありがちな失敗のひとつに「顧客を置いてきぼりにした機能開発」がありますが、顧客の利点を十分に意識せずに機能に注目してしまっていることが要因となっている可能性があります。

④     ソリューション(課題解決)

次に、顧客の課題に対するソリューション(課題解決)を書き出します。

一度に完璧なものをつくる必要はないため、イメージでも一旦思い浮かぶものを入れておき、検証の過程でブラッシュアップしていきましょう。

ソリューションを簡潔に言語化することで、事業構想を整理するメリットも得られます。

⑤     チャネル(販路)

ソリューションまで考えたら、次は顧客にどのように届けるか、どのように認知させるかを書き出しましょう。

顧客に届ける方法は、インバウンドチャネル(プル型)、アウトバウンドチャネル(プッシュ型)などが挙げられます。

インバウンドチャネルとは、顧客側から情報を引き出すチャネルです。自社ホームページやブログ、SEO、FacebookやTwitterなどのSNSなどがその一例です。

アウトバンドチャネルとは、企業側から情報を打ち出すチャネルです。リスティング広告、営業電話、展示会、セミナーなどが挙げられます。

⑥     収益の流れ

次は、どのように収益を得るか、どこから収益を得るか。収益モデルや収益源を書き出しましょう。

どのポイントでマネタイズできるかを検討し、単価、粗利益率などを設定しましょう。

「1回の取引で見込める収益」をシミュレーションできる書き方が好ましいです。

初めから完璧にする必要はないので、検証の過程でブラッシュアップする前提で、大まかに記入しても問題ありません。

⑦     コスト構造

次はサービスリリースまでに想定される開発費、人件費、広告宣伝費などを記載します。

特に、コストは初めから正確に出すことが難しいため、概算で問題ありません。

正確な費用が分かった段階で、追記や修正を加えていきましょう。

⑧     主要指標

次はビジネス活動を評価するための中間目標として、KPI(Key Performance Indicator)を設定しましょう。

主要指標はAARRRモデルに沿って記載してくと書き出しやすいです。

AARRRモデルは以下の頭文字に沿って考えるフレームワークです。

  • Acquisition(獲得)…SEO、ECサイトへのアクセスなど
  • Activation(活性化)…会員登録、無料体験など
  • Retention(継続)…ポイントサービス、キャンペーンの実施など
  • Revenue(収益)…商品の購入など
  • Referral(紹介)…口コミ、SNSへのシェアなど

売上そのものではなく、売上に寄与する項目を指標に設定しましょう。KPIが適切に設定されていないと、本来の目的達成には直接寄与できない目標に注力してしまう可能性があるため、定期的な見直しが重要です。

⑨     圧倒的な優位性

最期に、競合サービスには簡単に真似できない自社の優位性を記載しましょう。

注意点は、アプリや機能自体はよほどのものでない限り、圧倒的な優位性になりにくい点です。

例えば、以下のような項目は、新規参入の競合には簡単に真似できない自社の優位性になります。

  • 既存顧客のネットワークがある
  • 専門家のサポートが受けられる
  • サービスの信頼性が客観的に評価されている
  • 知名度やブランド力がある

初期段階では空欄でも構いません。わかった段階で記入していきましょう。

他社の事例から学ぶリーンキャンバスの作り方

具体的な企業のリーンキャンバスの事例を3社紹介します。

RIZAPのリーンキャンバス

「結果にコミット」のCMが印象的なフィットネスジム“RIZAP”。

スタートアップの成功事例として評価されるRIZAPのリーンキャンバスを紹介します。

①     顧客セグメント

  • たるんだ体を鍛えたいビジネスパーソン
  • 日常的にフィットネスジムに通うビジネスパーソン
  • 自己投資マインドの高い経営者、芸能人

②     課題

  • 運動不足で体がたるんでいる
  • フィットネスジムが続かない
  • ダイエットが長続きしない

③     独自の価値提案

  • 3ヶ月で引き締まった体になる
  • AI学習で、科学的根拠にのっとったアルゴリズムを構築
  • 30日間全額返金保証制度

④     ソリューション

顧客の個性を把握し、最適な食事療法やトレーニングメニューを組む

⑤     チャネル(販路)

  • 印象的なテレビ広告
  • 口コミ
  • 無料カウンセリングによる減量シミュレーション

⑥     収益の流れ

  • 55,000円(税込)の入会費と327,800円(税込/16回)のトレーニング費用
  • 体型維持もしくはリバウンドした利用者の継続利用料

⑦     コスト構造

  • 広告宣伝費
  • システム開発・運営費
  • 施設・設備管理費
  • 店舗拡大に係る費用
  • 人件費

⑧     主要指標

エリア・店舗・客層別の登録者数

⑨     圧倒的な優位性

「結果にコミット」というフレーズとCMで刷り込んだ会社のブランド力、実績

以上がRIZAPのリーンキャンバスです。印象的なCMでなじみ深い企業のため、イメージしやすいのではないでしょうか。

Airbnbのリーンキャンバス

次に紹介するのは、泊まる場所を探す旅行者(ゲスト)と、空き家・空き部屋を貸したい人(ホスト)を繋ぐオンラインサービス、“Airbnb(エアビーアンドビー)”。

Airbnbは「ゲスト」と「ホスト」の双方を顧客として設定したサービスです。このような市場を“ツーサイデッド・マーケット”といいます。

ツーサイデッド・マーケット型のビジネスを検討する際は、「ゲスト」「ホスト」双方の要素をリーンキャンバスに落とし込む必要があります。

「ゲスト」向けの要素、「ホスト」向けの要素、双方に共通する要素をそれぞれ色分けすることで、見やすいリーンキャンバスになります。

①     顧客セグメント

「ゲスト」:安く快適に旅行をしたい人

「ホスト」:空室を利用して収益を上げたい人

②     課題

「ゲスト」:旅行に行きたいが、ホテル代が高くて困っている

「ホスト」:収益にならない空室がある

③     独自の価値提案

「ゲスト」:快適かつ安価な旅行がしたい

「ホスト」:空室を活用して稼ぐことができる

④     ソリューション

「共通」:ゲストとホストのマッチングプラットフォームを提供する

⑤     チャネル

「ゲスト」:Webサイト

「ホスト」:口コミ

⑥     収益の流れ

「共通」:ホストとゲスト双方からの手数料(ゲストは14%、ホストは3%)

⑦     コスト構造

  • システム構築費
  • システム運用費
  • 従業員の給料
  • フリーカメラマンへの報酬

⑧     主要指標

  • 「ゲスト」:予約とコンバージョン率
  • 「ホスト」:取引数と公開部屋数

⑨     圧倒的な優位性

  • 世界191か国以上に広がる、500万件以上の宿泊先とのネットワーク
  • 24時間カスタマーサポート

情報社会の昨今は、インターネットやSNSの普及で市場の形態も多様化しています。

リーンキャンバスを作成する際は、構想しているビジネス形態に近い事例を参考にすると書きやすいでしょう。

スマートニュースのリーンキャンバス

ダウンタウンや吉岡里穂、乃木坂46、千鳥など豪華な芸能人のCMで話題の「スマートニュース」

総ダウンロード数は5,000万を超える日本発、No.1ニュースアプリとなった「スマートニュース」のリーンキャンバスを紹介します。

①     顧客セグメント

  • 情報の選別に迷っているビジネスパーソン
  • 閲覧数の多いアプリに広告を出したい企業

②     課題

情報が増えすぎて何を選別したらよいかわからない

③     独自の価値提案

世界6拠点、3,000メディアの圧倒的情報量から、あなたの知りたい情報を届ける

④     ソリューション

3,000以上の媒体と提携した情報プラットフォーム

⑤     チャネル

  • 芸能人を利用した豪華なテレビCM
  • クーポンによる“お得”の提供
  • Web検索、App内検索
  • ブログ、SNS

⑥     収益の流れ

広告収入

⑦     コスト構造

  • 人件費
  • アプリ開発費・運営費
  • 広告宣伝費

⑧     主要指標

  • アプリのインストール数
  • ログイン数
  • チャンネル追加

⑨     圧倒的な優位性

  • 3,000の掲載媒体数
  • Google Play「ベストアプリ2020」、「生活お役立ち大賞」を受賞したブランド力
  • 5万店舗以上のクーポン発行店舗との提携ネットワーク

リーンキャンバスを検討する際、アプリ自体や機能は圧倒的な優位性になりにくいと言われます。

スマートニュース自体は無料でサービスを提供していますが、周辺環境が優位性をつくっていることが分かります。

自社のリーンキャンバスをつくる方法と注意点

ここまで、3社の事例を用いてリーンキャンバスの作成方法を紹介してきました。

では、最後に自社のリーンキャンバスを作成する方法と、注意点をお伝えします。

完璧主義になりすぎない

リーンキャンバスを作成する際に一番陥りがちな失敗が、「完璧主義」です。

リーンキャンバスは、検証と修正を前提にしたフレームワークであるため、作成時点で明確に記載できない項目は空欄や大まかなイメージで埋めて、徐々にブラッシュアップしていきましょう。

短時間で書き上げる

リーンキャンバスは「わかりやすさ」「時間コストの省力化」をメリットとしたフレームワークです。

難しく悩まず、30分程度で書き上げられるような直感的な表現でOKです。

一つの項目に悩み過ぎてしまうと、全体観の欠けたアイディアになってしまい、ドツボにはまってしまうことがあります。

書き上げた後にチェックすればいいので、短時間での作成を心がけましょう。

一人で作り、意見を求める

また、チームで事業企画をする際、「みんなでつくる」ことが障壁になることがあります。

複数の作成者がいることで、あれもこれもと分散してしまい、面白みや特徴のないリーンキャンバスになってしまう可能性が高いです。

「考案」と「フィードバック」で役割をはっきりと分け、考案は一人で行い、フィードバックでチームの力を借りましょう。

仮説・検証・修正を繰り返し仕上げていく

リーンキャンバスは一度で仕上げるものではありません。

分からないことは「仮説」で入れていき、インタビューなどの「検証」を行うことで確かなものとし、ズレが確認できた項目は「修正」しながら全体を整えていきましょう。

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まとめ

スタートアップの事業計画に最適なフレームワークが「リーンキャンバス」です。

リーンキャンバスのメリットは、「短時間で作成」することができ、「内容をわかりやすく伝え」、「共有が簡単」ということです。

「顧客セグメント」「課題」「独自の価値提案」「ソリューション」「チャネル」「収益の流れ」「コスト構造」「主要指標」「圧倒的な優位性」の9要素を、キャンバスに落とし込み、ビジネスモデルを整理します。

完璧主義になりすぎず、一人が短時間で書き上げ、検証と修正を繰り返してリーンキャンバスを完成させていきましょう。

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